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Totie's ノート

コラム・エッセイ

島外との”関係”が島の価値を磨き上げてきた(人と国土21 寄稿文①)

人と国土21 2020年5月号」への寄稿文を5回にわたって、掲載します。


 特定非営利活動法人Totie(以下トティエ)は、設立から今年で5年目を迎えたが、今ほど私たち自身の役割ややるべきこと、地方で新しい暮らしを始めたいと思っている方と島とが一緒に手を取り合い、どのように島の未来を築いていけるかを考えたことはない。
トティエの主活動である“移住”は、それ単体やビジュアルによるイメージが先行されがちだが、本質としては「これからどう生きたいか」というそれぞれの人生設計や理想とする暮らし像がまずあり、その上で「どこで住むか」を考えていくという極めてパーソナルなことだ。このように一人ひとりの考えや気持ちが行動の原点になっていることから、全体で語られがちな「移住」というアクションは突発的に生じている現象ではなく、社会背景や情勢から生まれる様々な環境の変化や世間の空気と密接な関係がある。コロナ禍以前にもテレワークやフリーランスの移住、ワーケーションといった新しい働き方をする方々が増えており、場所だけに囚われない生き方の多様性が広がるにつれ、逆説的に「どこで暮らすか」ということが重要になってきていた。こういった社会変化から暮らしへの意識やニーズが高まり、その現象の一つとして“移住”の動きに現れた。今後はより一般的な選択肢となっていくのではないだろうか。
また、都市生活に生き辛さを感じている方は以前から多くおり、今後の経済状況の悪化に伴ってより増えていくことを懸念している。社会問題が深刻になりつつある今、私たちにできることは、ストレスフルな状況でネガティブに考えてしまう方に対して、その環境から一時的にでも離れて考えるきっかけを作り、新たなスタートができるよう「地方で暮らす」という選択肢を提供していくことかもしれない。本来、社会全体を良くするために存在する私たちの役割自体を、コロナ禍の中で改めて考える機会を与えられている。
 少し前置きが長くなったが、小豆島・豊島(てしま)への移住相談窓口を担うトティエの移住・定住促進活動、そして“小豆島移住のいま”をお伝えしたい。

新しいものと古いものが共鳴し、価値を生み出し続ける「宝島」

 小豆島は、古事記などの歴史書に記述されていることから、国土の一つとして、かつての大和地方の人たちにとって重要な存在であったのではないかと推測できる。近世では、天領や直轄地となったことで都とのつながりが強くなり、地理的にも瀬戸内海の海上交通の要所として人や物の往来も盛んで、その結果さまざまな文化が花咲き、産業が興った。
 現在では栽培から112年を迎えた〝オリーブの島〟として知られているが、ほかにも有名なところでは、良質な〝島塩(塩づくり)〟を活かして1500年代後半から製造が始められた醤油や、1600年頃に奈良の三輪地方から伝わり今でも天日干しにより製造されている素麺があげられる。1858年に創業したかどや製油(ごま油製造)の発祥の地でもあり、国内外に販売するほとんどの商品を小豆島工場で作っている。また、第二次大戦後には伝統の醤油を生かした佃煮づくりが開始され、一時期は全国でも大きなシェアを占める程に成長した。
 文化面では、350年ほどの歴史を有する中山地区と肥土山(ひとやま)地区の農村歌舞伎が有名である。かつては現存する二地区の舞台と同じ規模の舞台が30以上、仮設のものを含めると100以上あったとされる。このほか島遍路や豊作を祈願する虫送り行事などの伝統文化も継承されている。昨年5月には、島内に残る石切場や丁場跡などが日本遺産「石の島」の構成文化財として認定された。
 不朽の名作である小説『二十四の瞳』の作者・壺井栄さんや、プロレタリア文学者として著名な黒島伝治さんの生誕地であり、最近では数多くの〝聖地巡礼者〟を生んでいる漫画『からかい上手の高木さん』の作者・山本崇一朗さんの故郷としても知られている。
 『二十四の瞳』の映画化(1954年)や、昭和40年代の第一次離島ブーム以降、年間100万人以上の来島者を数える「観光の島」であるが、近年の来島者の増加やその目的は、新しいステージに入ったように感じられる。平成22年から3年おきに催されている瀬戸内国際芸術祭では、20代、30代という今までの来島者層で少なかった若い年代の方が瀬戸内の島々を訪れ、昨年開催の第4回においては約18万6千人の方々が小豆島に来島している。また、ニューヨーク・タイムズが発表した「2019年に行くべき52カ所」に〝SETOUCHI(瀬戸内)〟が選出され、それまで人気だった直島だけでなく他の島々にも注目が集まっている。このほか、昨年発表された「goo+dランキング<人気離島ランキング>」にて1位を獲得するなど、小豆島への来島のきっかけにつながる機会が創出されている。
 観光における近年の傾向をみると、ひと昔前のような観光バスで島内スポットを巡ってそのまま出ていくといった、ツアー会社や島内業者が見せたいものを見せる形から、旅行者自身が興味のあるものを体験する形へと変化している。芸術祭やインスタ旅(写真旅)などで来島している発信力のある彼らがスマートフォンを片手に島内のさまざまな〝映えるスポット〟を撮影し、それをSNSに投稿することで、小豆島を知る人が増え、来島のきっかけになるという、良いサイクルができつつある。


続きの「小豆島が人々を惹きつけている源泉(人と国土21 寄稿文②)」は来週投稿予定です。

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